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コラム
2018年3月7日

オリンピックと文化発信

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
芸術・文化政策センター主席研究員/センター長
太下義之さんに聞く

三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 芸術・文化政策センター主席研究員/センター長 太下義之さんに聞く

スポーツの国際祭典、と一般に理解されている「オリンピック」。もちろん、それは間違いではない。しかし、「文化・芸術の振興のための積極的な取り組み」までが開催国に課されていることを知る人は、おそらく多くはない。 

“課されている”というよりは、“振興のまたとない機会”と理解すべきなのであるが。日本人はよく、外国に行って初めて自国の文化の素晴らしさに気づく、と言われる。外国人から日本の文化・芸術についていろいろと質問を受けるものの、答えることができない。質問者は驚く。「あなたの国の文化はスゴいのに!」と。

それが京都の人ならば、京都に帰ってきてあわてて寺社めぐりをする、歌舞伎や能を観る、伝統産業に触れてみる。そして、その魅力にようやく気付くのだ。

太下さんは言う。「オリンピックを開催すれば、おのずと外国人が多数訪れます。もちろん競技を観に来るわけですが、観光目的の来訪者も多く、競技開催地のみならず日本の各地を訪れることでしょう。すると、日本中が“外の目”にさらされることになり、インターネット・SNS 全盛のいま、日本の現状は瞬く間に世界中に知れ渡ります」。

たしかに、普段あまり日本のことに興味がない人や国も、オリンピック期間中ともなれば話は別だ。「戦争から70年を経た、アジアの小さな人口過密島国のニッポンは、いまこうなっているのか!」、と。

“2度目の”東京オリンピックの意義をしっかり理解すること

恥ずかしいから頑張ろうとか、ちょっとはマシにしておかないと、ということではない。「外からの目」を得て、日本の文化にいまいちど日本人自身が関心を高め、さらに高いところに持 ち上げる絶好のチャンスなのだ、と太下さんは言う。

「半世紀前、東京オリンピックという機会を得た我が国。そのときは、戦後復興から高度経済成長へのさなかであり、東海道新幹線、首都高速道路など社会インフラの整備という大きな恩恵にあずかりました。今回のオリンピックを迎える我が国の事情は、およそ違っています。“成熟国”において2度目のオリンピックが開催される意義、というものを我々は考える必要があるのです」。

経済成長は「バブル」に行き着き、さらにその「崩壊」を経て、長期的な景気の低迷にまで陥っている。わずか50年の間に…である。半世紀前に、この状況を想像できた人は多くはない。そして2回目の東京オリンピックが開催されると、誰が思ったであろうか。いま、我々が手本とすべきは、我が国と同様、第二次世界大戦後で初の同じ都市での2度目の開催となった2012年のロンドンオリンピックであると、太下さんは続ける。

「この時の開催地の決定に際して、ロンドンはパリと最後まで競ったのですが、ロンドンのほうが文化振興プログラムの提案において優っていたのです。“Sports”という言葉を使わず“Culture”という言葉で活動を展開しました。つまり、若者の特権は、スポーツだけにあるのではなく、むしろイマジネーションの喚起にこそある、と」。

象徴的だったのが、ロンドンだけでなくイギリス全土で実施された「Artists taking the lead」というアーティスト発案型のアート・プロジェ クトである。アーティストがリーダーシップをとり、イギリスを12の地域に分けて公募を行い、一次審査、二次審査を経て計12のプロジェクトが選ばれ、オリンピックに向けて芸術活動を展開した。伝統文化である織物、大衆芸能の映画、音楽、さらには建築やパブリックアートなどさまざまなジャンルの魅力的な芸術が創造され、イギリスの文化力が内外に示されることになったのである。

景気低迷、高齢化の日本に、“文化発信”を起爆剤に

国の規模や、伝統を重んじる民族性、政治形態などがイギリスとよく似ている日本にとって、ロンドンオリンピックの事例は格好の手本である。しかし、その日本の実情たるや、人口減少、高齢化、景気の低迷に直面し、国力ダウンは免れ得ない状況である。

「極端に言えば、今回のオリンピックは、日本の在り方や文化シーンを考えていく最後のチャンスなのではないか」、と太下さん。そのために不可欠なことは、日本全体が自国の文化に向き合えるプラットホームを多数持つこと、多くの人が主体的に参加する機会を多数用意することであるという。

「日本の現代社会の課題に、政治や産業だけではなく“文化”が向きあうことで、違った経済循環が生まれると思うのです。そして、文化と言えば京都。全国に先駆けて、コンテンツの豊富な京都がまず動けば、他もそれに呼応しやすくなります。オリンピックに“主体的に参加する” なんていうことは、ほとんどの人にとって一生に一度の機会です。みんなでおもしろいことやろうよ、という機運を盛り上げていきましょう」

こうなると、ただ観るものだと思っていたオリンピックが、エラいことになっていきそうだ。京都という、日本を代表する“文化の都”にいる我々にとって、手を伸ばせば届くところにある日本の、京都の、すぐれた文化に主体的に関わるチャンスなのである。

太下さんは結ぶ。

「推進者サイドの役割は、府民市民がそのクオリティの高さに気づくような動機付けの機会、そして参加の場をたくさん作ることでしょう。府民市民の皆さんは、自分の生活がより豊かになることを確信し、関わっていってはいかがでしょうか。“またとない”この機会を逃さぬよう」。

 

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