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コラム
2018年8月10日

オリンピックと文化創造

株式会社ニッセイ基礎研究所 研究理事
吉本 光宏さんに聞く

株式会社ニッセイ基礎研究所 研究理事 吉本 光宏さんに聞く

オリンピック憲章には、「スポーツを文化と教育と融合させる」ことが明記されている。オリンピックがスポーツの祭典であるとともに文化の祭典でもあり、開催国に「文化プログラム」の実施が求められていることを認識している人は、決して多くはないだろう。 

そしておそらく大多数の人が、それがどのような取組なのか、ピンとこないのではないだろうか。しかし、東京オリンピック・パラリンピック競技大会を2年半後に控えた今、関係機関では「文化プログラム」の検討・準備が進み、具体的な事業もスタートしている。組織委員会や東京都の文化プログラムに関わる吉本さんはこう語る。「ロンドンが2012年大会の招致に成功した大きな理由の一つは、彼らの提案した文化プログラムにあったと言われています。ロンドン大会はそれを実践した訳ですが、注目すべきポイントは三つ。一つは、すべての人々に文化を通じてオリンピックに参加できる機会を提供したこと。二つ目は、英国の人々が観客・聴衆としてだけではなく、一定の条件を満たせばその主催者として深く関わることが可能であったこと。そして三つ目は、自国の文化発信にとどまらず世界中の文化やアーティストを受け入れ、チャンスを提供したことです」。

ロンドン大会では、北京大会が終わった2008年9月から4年間、ロンドンだけではなく英国全土で、音楽、演劇、ダンス、美術、文学、映画、ファッションなど幅広い分野で膨大な数の文化事業が実施された。競技大会に参加した204のすべての国と地域から4万人のアーティストが登場し、参加者の総数は4,340万人にものぼったという。

吉本さんは強調する。「オリンピック・パラリンピックは国際交流・相互交流の場。発信すると同時にいかに世界の人々を受け入れるかも重要だと考えています」。

社会課題に対してもたらされる 芸術ならではのソリューション

今やスポーツは、人と人、地域と地域の交流を促進し、地域社会の再生に寄与するものとして、また、健康で活力に満ちた長寿社会の実現に不可欠なものとして、その社会的な役割が広く語られている。吉本さんによれば、最近では文化芸術が及ぼす社会的なインパクトにも注目が集まっていると言う。

その領域は実に幅広い。芸術の授業を受けた子どもの方が国語や算数などの成績が高いという調査結果があるほか、高齢者が芸術活動に参加することで、リハビリでは上がらなかった腕が上がるようになったり、芸術祭をきっかけに若い世帯が過疎地に戻り休校になっていた小学校が復活したり…。「教育や福祉、地域創生といった現在の日本社会が抱える課題に対して、文化芸術ならではの様々な効果があらわれています。文化芸術はそれ自体に価値があるものですが、今まで以上に、その社会的な価値は高まっているのです」。

ここで注意すべきことの一つは、芸術だからこそ得られる効果に着目することだ。「例えば教育上、演劇は国語力を高めるうえで効果があると言われます。しかし本当に大切なのは、演劇をチームで作り上げる過程でコミュニケーション能力を培ったり、その楽しさを体感したり、迷惑がかかるから稽古を休まないという責任感が芽生えたりすること。つまり、演劇を通じてこそ得られるものを学び身に付けることが肝要なのです」。

そしてもう一つ、幅広い領域への効果が注目されるほどに重視すべきことがあると、吉本さんは念を押す。「そうした波及効果の起点となる芸術や文化そのものの振興です。それらの本質的な価値を見つめ、芸術や文化そのものにいかに投資し、サポートするかが重要なのです。」「確かに、文化芸術が多くの波及効果をもたらすという事実は、多様な文化プログラムを展開し、成功させることが、日本にとって今まで以上に意義深いものとなることを示しています。」「しかし、オリンピック・パラリンピックには終わりがあります。そこで発想を転換させて、全国各地で実施されるであろう大小の文化プログラムは、“オリンピック・パラリンピックのため”のものではなく、“各地域の住民とその地を訪れる人々のため”のもの、と考えてはいかがでしょうか。より身近なこととして捉え、継続することで、各地域で文化芸術が果たし得る役割も自ずと見えてくるはずです」と。

“世界と新たに出会う”場となり、地方創生のモデルケースに

吉本さんは、「伝統として受け継がれているものがあると同時に、新しいものが生み出されていて、それがまた何百年という歴史の上に積み重なっていくこと」、また「それを可能としてきた懐の深さ」こそが、京都の文化力の強さだと語る。

ただしそれらは、外からは見えにくく、その礎となっている価値観や美意識も伝わりにくい。そこで吉本さんが京都における文化プログラムとして提案するのは、町家を活用した「アーティスト・イン・レジデンス」だ。

「オリンピック・パラリンピックに参加するすべての国のアーティストを町家に招き、京都で暮らし創作する機会を提供してはいかがでしょうか。簡単ではないとは思いますが、実現すればおそらく世界中のアーティストが手を挙げることでしょう。単発のイベントでは知り得ない京都の文化の奥深さを体感したアーティストは、帰国後、吸収したことを周囲に伝え、作品づくりに活かしていくはずです。そうした活動の一つひとつが、京都で大型のイベントを行うより、京都の文化をより深く、長く海外に発信することにつながり、京都の新たな文化を生み出す国際交流の“種”になるのではないかと思います」。

加えて吉本さんは、京都の文化力にある期待を抱く。2021年度までに全面的に移転される文化庁により、広い視野で、文化芸術の本質的な価値に重点を置いた文化振興が実践されることだ。

「京都なら、文化芸術の波及効果による地方創生のモデルケースを示せるのではないでしょうか。伝統を継承しながら、将来の伝統となる文化を生み出していく京都の文化力が、日本中を元気にする原動力となる日が来ることを信じています」。

 

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