• 日本語
  • English
  • 简体中文
  • 繁体中文
  • 한국어
  1. HOME
  2. コラム
  3. 観世流能楽師 十世 片山九郎右衛門さん
コラム
2019年3月28日

観世流能楽師 十世 片山九郎右衛門さん

観世流能楽師 十世 片山九郎右衛門さん

かたやま・くろうえもん

1964年京都市生まれ。本名清司。父の片山幽雪(九世片山九郎右衛門)と八世観世銕之亟に師事し、70年「岩船」で初シテ。片山定期能楽会を主宰し全国各地、海外で多数の公演を行うほか、能楽の普及、後継者育成に取り組む。2011年十世九郎右衛門を襲名。受賞歴は、2003年文化庁芸術祭新人賞、13年京都府文化賞功労賞、15年芸術選奨文部科学大臣新人賞など多数。

能を演じ、心で舞う。片山家の「風」を次代へつなぐ。

能には各家の「風(ふう)」がある

私は、「男は能、女は舞」という家に生まれ、何かを考える余裕もなく、父(九世九郎右衛門)の言われるままに所作をまねて身に付けていくという日々を続けてきました。しかも、その指導は「速い」とか「遅い」とか抽象的な言葉だけ。目に見えない形や色を研ぎ出していくようなもので、正解がない。10代から30代にかけては、まさに闇の中を歩いているようで悩みました。そのため、何か答えが欲しいと、東京の故八世観世銕之亟(てつのじょう)先生の教えを請うたわけです。でも結局、同じこと。わかったのは、長い時間をかけて大きな心の流れ、風の吹いていく方向みたいなものをつかんでいくしかないという漠然としたことでしたね。銕之亟先生も「『風姿花伝』と言うでしょう?つかみどころはないが、片山家にも『 風(ふう)』があるよ」と。「片山家の風」と言っても、言葉にするのは難しい。それは、その曲目に父はどうやって立ち向かっていたかを受け 取っていくことなのだろう、と思いました。

そして、舞は舞、能は能と厳しく律してはいますが、京舞とは生活の場もけいこ場も一緒ですので、片山家の能は舞を自然に意識しているところがあります。たとえば「屋島」(※1)の修羅の世界を表現するには、舞踊がすごい。なので、能を演じながら、心の中で舞っているというようなこともあるわけです。これも片山家の風と言えるでしょうし、こうしたものを次へとつないでいくことが私の大切な役割だと思っています。

多ジャンルと交流できる京の街

伝統工芸が息づく京都は職人の街。これがすばらしい。私たち能の世界にいる者は、どちらかというと時が止まっているようなところがある。ところが、工芸の職人さんたちと接していると、有形のものを扱うせいか実に現代の世相に敏感だと感じるんですよ。そうした職人さんたちとよくご一緒させていただいて、よい刺激を受けています。

京都は「伝統と革新の街」とも言われますが、伝統工芸だけでなく現代アートなども盛んな土地柄で、さまざまな職種の方々と交流できる。1960年代、叔父(片山慶次郎)がわっていた「上方風流(ぶり)」(※2)のようなジャンルを越えた交流が、またできるようになったらいいなと思いますね。

受け狙いでは芸が育たない

ところで、30年ぐらい前、東京からやってきた能楽師の人たちは「京都の観客は手ごわい」と、よくおっしゃったものでした。同じ演目で同じ演出でも、東京のようにすぐに受けない。いかにも冷めた反応で怖いというわけです。実際、当時の京都のお客さんは何か吟味するようにとても冷静でした。ところが、最近は何だか違うんですね。反応がすぐに返ってくるようになってきた。

これは、演じる者にとっては、ある意味楽しいことで、やれば受けるし、やりやすい。ただ、問題があるんです。反応を求め、芸がどんどん受け狙いで「あざとく」なってしまうのではないか。確かに、昔から東京に比べ関西の芸風は情感に訴える部分が大きい。ですが、それはそれとして、お客さんの冷たい視線を我慢しながら自分の芸を磨き続けていくというのが京都の舞台です。京都は、消費するよりも育てる街のはず。受けることばかりを狙って演じていると能の本質を外れてしまうことにならないか、能力や芸を育てていくことにつながらないのではないか…。少し心配ではあります。

継承と発展をステップアップ

現代の日本では、古典芸能を理解し楽しむための背景がどんどんなくなっています。しかし、京都にはまだ、それがよく日常に残っているのです。そうした中で、私は能の絵本化やCG化などでの能楽の普及や後継者を育成する取り組みも進めてきました。今、こうした取り組みのさらなるステップアップを目指し、「伝承の会」(※3)の活動をはじめ家や京都という枠を越えて能の世界全体へと広げていきたいと模索しているところです。

【※1】屋島=能の演目。世阿弥作。平家物語を題材に義経を主人公とした修羅能(武人がシテ)の代表作。他流、舞踊では「八島」と。 【※2】上方風流=1960年代中頃、大阪・京都を中心に関西の芸能人、評論家などが新旧・ジャンルを越えて集まり機関誌を発刊。中心メンバーは能の片山慶次郎(八世九郎右衛門の次男)、歌舞伎の坂田藤十郎、落語は三代目桂米朝、喜劇俳優の藤山寛美、大村崑、文楽からは竹本住大夫ら。
【※3】伝承の会=従来、家単位だった次世代の育成を、片山九郎右衛門さんが会長である京都観世会全体で取り組もうというシステム。同時に若い観客を迎え入れる環境づくりも兼ねている。


出典:『京都文化力プロジェクト2016-2020 機関誌 vol.3』「創造する文化 京都から世界へ」

あなたは旧式のブラウザをご利用中です
このウェブサイトを快適に閲覧するにはブラウザをアップグレードしてください。