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コラム
2019年7月29日

作家 藤野 可織さん

ふじの・かおり

京都市生まれ。同志社大学大学院美学芸術学専攻博士課程前期修了、文学修士。京都市内の編集プロダクション、出版社に勤務しながら作家を目指し、2006年にデビュー作『いやしい鳥』で第103回文學界新人賞を受賞。13年、独特の二人称小説『爪と目』で149回芥川賞を受賞。主な著作に『パトロネ』『おはなしして子ちゃん』『ファイナルガール』『ドレス』など。美術館巡り、アクション、ホラー映画の大ファンでもある。

よその街を知って感じた京都の文化力

ベラスケス王女の肖像画

母が絵本をよく読んでくれたおかげで、幼稚園のころには字が読めるようになっていて、一人で絵本を読み、そこから自分の世界を広げていったようなところがあります。友だちと遊ばないわけでもなかったし、つかみ合いのケンカもしたり活発なところもありま したが、どちらかというと一人で遊んだり、本を読んだり、絵を描いたりしているほうが好きでした。

母はよく私を美術館に連れて行ってくれました。美術館の最初の記憶は、京都市美術館でベラスケス(※1)が描いたマルガリータ王女(※2)の肖像画を見たことです。母は、その絵を見て私が喜ぶと思ったのでしょう。でも、美術館にいたマルガリータ王女は、 ちっとも美人じゃなかった。それに、そのドレス姿はこたつの上に上半身が乗っているみたいに見えて、私のお姫様のイメージがすっかり壊されてしまいました。その美術館は、人がいっぱいだったせいもあったと思いますが、小さな私まで照明がとどかず、とにかく真っ暗という印象が残っています。この美人じゃないお姫様を見てから私は、現実を受け止めて「むやみに夢を見ない子」になったように思います(笑)が、その後も美術館によく通うようになり、美術作品にたくさん親しみました。

そうして、大学では芸術学を専攻して大学院にも行き、美術関係の学芸員を志したのです。ところが、学芸員はとても狭き門で難しい。その時に思い出したのが、小さなころは「お話を書く人になる」と当たり前のように思っていたことでした。いろいろと純文学寄りの本も読んでいましたし、そうだ、小説を書いてみようというわけで、新人賞を目指して書き始め、ようやく2006年に文學界新人賞(※3)を受賞。そこから作家活動に入ったわけです。

よい文化施設が手近な京都の街

私は予定を立てて行動することが下手で、旅行に行くこともあまりなかったんです。ところが、作家になってからは出版社などのお膳立てでいろいろと旅行するようになり、地域によって伝統も、気候も、光の見え方も、さまざまに違うなあと改めて思うようになりました。そんな中、京都の街は、美術の展覧会にしても私が大好きな映画にしても、よい施設が手近なところにたくさんあります。美術館も映画館も大きな本屋さんも一日で楽に回れる距離。私は、生まれてから今日まで京都市内以外で暮らしたことがありませんので、神社仏閣が多いこともそうですが、これが当たり前やと思っていました。が、よそでは、こうはいかないのですね。東京や大阪にはもちろんたくさんの施設がありますが、何せ広過ぎ。何もかもが遠くてびっくりします。

よそでもっと多くのものに触れたいと思う一方で、そのよその街の人のほうが私より京都のことをよくご存じだったという経験も珍しくありません。そのたびに京都ってすごいんやな、私もせっかく住んでるんやし、もっと京都のことを知らんとあかんな、と思います。

いつかは京都の街を舞台に

私の作品は、日常の中に非日常が起こる。それを極めて写実的に書くことが特徴と言われます。これは、自分では美術の影響が大きいと思っています。画集の作品の中でいろんなことが起こっている。すごく不思議なものもあれば、何の不思議もないものもありますが、私にとっては両方が等価値。同じ受け止め方なんです。細部までこだわるのは大学時代、写真部 にいたことが影響していると思いますが…。

私の作品では、世界や日本のどこにでもあるような中小規模の町が舞台になることが多い。あまり意識していないのですが、多分、それは日頃見ている京都の風景や街並みを抽象化して描いているのではないかと思っています。機会があれば、一度は京都を舞台に、地名も場所も具体的に記し、地図で追体験できるようなお話も書いてみたいですね。

【※1】ベラスケス=スペインの画家。スペイン絵画の黄金時代といわれる17世紀を代表する巨匠。
【※2】マルガリータ王女=スペイン王フェリペ4世の娘で、神聖ローマ皇帝レオポルト1世の最初の皇后。ベラスケスによる多くの肖像画が残る。
【※3】文學界新人賞=文藝春秋が発行する文芸雑誌『文學界』の公募新人賞。第1回は1955年、石原慎太郎『太陽の季節』が受賞。


出典:『京都文化力プロジェクト2016-2020 機関誌 vol.3』「創造する文化 京都から世界へ」

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