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コラム
2020年5月1日

小川流煎茶七世家元 小川 後楽さん

おがわ・こうらく

1971年、京都市生まれ。立命館大学法学部卒業後、NTT西日本㈱に勤務。2009年、小川流煎茶家元嗣に就任。2017年、小川流煎茶七世家元を襲名。流祖より受け継ぐ小川流独自の煎法を守りながら、煎茶の魅力を広める活動に尽力。京都造形芸術大学客員教授、佛教大学非常勤講師。

きちんとした所作で、おいしいお茶をいれる。
ただそれだけで、大切な人に想いを伝える
コミュニケーションツールになります。

美味なお茶をさしあげたい その真心を形にしたのが煎茶道

煎茶道では、急須の中に茶葉を入れて湯を注ぐ、正式には「淹茶(えんちゃ)」と呼ばれる煎法で、おいしいお茶をいれ、喫茶を楽しみます。その魅力は、お茶をいれる人の心を映して変化する茶味の素晴らしさ、豊かさにあります。
煎茶道として家元制度のもと受け継がれるようになったのは、江戸時代後期のこと。京都では一番長い歴史を持つ小川流の始まりも、およそ200年前に過ぎません。しかし煎茶という言葉そのものに焦点を当てると、その歴史は平安時代にまで遡ります。唐の王侯貴族が楽しんでいたお茶の種を最澄・空海が持ち帰り、天皇を中心とする貴族階級のもとで煎茶文化が花開きました。庶民にとっては京、つまり都の文化として、憧憬の対象だったのです。その後、幕末には京都の文人・志士が、武家政権のもとで発展した茶の湯ではなく煎茶を嗜むようになったことから、明治・大正にかけて、煎茶は再び興隆期を迎えました。
かつて憧憬の対象だったとはいえ、煎茶道、特に小川流では、客人に細かな作法を強いることはありません。手前の種類は茶葉の種類だけあると言えますが、それらは、最良の茶味を引き出すための必然的な手順の積み重ねが、自ずと形になったもの。手前によらず最も大切なことは、「美味なお茶をさしあげよう」という真心なのです。

手ずからいれた特別なお茶には相手に伝えたい想いが宿る

喫茶精神の極意は、おいしいお茶をいれる稽古を通して、思いやる心と、物事を広く見通す力を培うことにあります。それは煎茶にまつわるさまざまなエピソードとともに今に伝えられており、煎茶史を学べば、進むべき道が自ずと見えてきます。このことは、現代、そして未来にも通じる煎茶道の存在意義の一つと言えるでしょう。
また私自身は、茶席は非言語コミュニケーションの場だと考えています。多くの言葉を交わすわけではないのですが、茶席に参加された方は「安らぐ」と言ってくださいます。言葉ではない何かが、そう思わせているのです。その何かとはおそらく、言葉以外の全てです。統計学上、人が相手を信用する時、実は言葉以外のものに重きを置いており、その割合は7~8割とも言われます。茶席なら、まずは所作。味覚という側面からもアプローチします。きちんとした所作でいれたお茶が本当においしければ、言葉はなくとも、あるいは「私は信頼に足る人間です」と100回言うよりも、健全な信頼関係が成立すると思うのです。
コミュニケーションが希薄な現代において、茶席における非言語コミュニケーションが、愛情や感謝の気持ちを伝えるツールの一つ、人と人とをつなぐ一助となることを願っています。それは身の回りにある道具で、すぐに実践できます。たとえば家族の誕生日や職場の歓送迎会で、ペットボトルのお茶の代わりに、目の前で手ずから、お茶をいれてみてはいかがでしょうか。茶葉を吟味して、お菓子を用意して、皆でお茶を味わう。それだけで、心に残る素敵なひとときを共有できることと思います。

 


出典:『京都文化力プロジェクト2016-2020 機関誌 vol.4』「くらしの文化を楽しむ」

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